世論無視し悪法成立 教員「働かせ放題」温存 改定給特法

改定教員給与特別措置法(給特法)が、2025年6月11日の参院本会議で自民、公明、立憲民主、日本維新の会、国民民主などの賛成多数で可決・成立しました。日本共産党とれいわ新選組などは反対しました。

賛成した会派の賛成討論

立民・社民・無所属(賛成)
 少しでも長時間労働の縮減につながる修正をと考え、立民が中心となって附則をつけたので賛成。
 以下の項目の実施を求める。  
 ①持ちコマ数の削減②教育課程の編成の見直し③教員の増員④支援員の増員、保護者対応などでの措置⑤中学35人学級の次年度からの実現⑥勤務実態調査の実施

維新(賛成)
 教員が時間的精神的にゆとりをもって働くことをめざす法案なので賛成。
 維新が要求して実現した附則は第5条。その趣旨は人事評価の改善が必要ということ。休んだ先生の代わりに働いた時間数の記載欄を設けるなどし、頑張った先生の業績が評価され、賃金やボーナス、昇給に反映するようにすべき。人事評価のしくみを国が示すべき。

国民(賛成)
 一定の前進があるので賛成。
 アフタースクール等の充実も必要。

反対した会派の反対討論 (要旨)

日本共産党の吉良よし子議員

 1971年、当時の自民党政府が、公立学校の教員に対し残業代支給を適用除外とする給特法を制定し、日本共産党を含めた全ての野党が反対しました。制定以降、政府はコスト意識がゼロとなり、教員を増やさず次々業務を増やし労働時間は無定量となりました。小中学校の教員は毎日平均11時間半働き、休憩どころかトイレにも行けず、SNSには「もう限界」と悲鳴が上がっています。

 本法案は、残業代不支給には手をつけず、教職調整額を現行の4%から10%に引き上げます。これは現状の労働実態に全く見合わないことは明らかで、適正な処遇改善とは言えません。

 特別支援教育に携わる教員への給料の調整額を引き下げ、学級担任手当も支給しないのはあまりに理不尽です。阿部文科相は「特別支援教育の重要性は低下していない」と答弁しましたが、調整額引き下げは軽視そのものです。障害に応じて専門知識を身につける研修を自費で受け、子ども一人ひとりに向き合う特別支援教育を担う教員の特殊性や重要性を理解していない。今すぐ撤回するべきです。

 新たに創設される「主務教諭」は、教員間に階層化と分断を生み、業務負担の増大も懸念されます。先に「主任教諭」を導入した東京都では対等に支え合う教員の同僚性が壊されている実態があり、主務教諭の導入は容認できません。

 本法案は、業務量管理や健康確保、時間外在校等時間など「目に見える成果」を教育委員会や学校に求めるもので、持ち帰り残業をこれまで以上に増長させる恐れがあります。国が行ってきた勤務実態調査の継続も拒否しており、教員の労働実態を把握できません。

 かつて文科省が、教員1人あたり1日4コマを基準に基礎定数を算定していましたが、阿部文科相は、1日5~6コマ押しつけられている現状を追認しています。その上、「時間外在校等時間はゼロになるとは限らない」と言い、石破首相も「教員の時間外勤務は労働時間に当たらない」と述べました。しかし、教員は勝手に残業しているわけではありません。最高裁は「教員の時間外労働は黙示的な職務命令が及んでいる」と認めています。

 教員からも怒りと失望の声が上がる中、「働かせ方題」を温存する本法案に断固反対します。


  公立学校教員の残業代は教職員給与特別措置法(給特法)で支払わないと定められ、代わりに月給4%相当の教職調整額が支給されています。この「特給法」が教員の「定額働かせ放題」の温床とされています。
 文部科学省は昨年、教職員の勤務実態調査を実施しました。今春にも速報値を発表する予定で、結果を踏まえて教員の処遇のあり方を検討することになっています。

 全日本教職員組合(全教)は2023年3月15日、教職員の長時間労働の実態を明らかにする調査の最終集計を発表しました。自宅への持ち帰り仕事も含めた教員(教諭・助教諭・講師等)の時間外勤務は、月平均96時間10分。過労死ラインとされる月80時間を超えていました。

 調査は2022年10月24日~30日を対象に、全教、教組共闘連絡会の各組織を通じて全国の小中高校・特別支援学校・幼稚園などの教職員らに調査票への記入を依頼し、63都道府県の教職員から寄せられた有効回答数は2524人(うち教諭・助教諭・講師等は2106人)が回答したものです。

 時間外勤務と持ち帰り勤務を4週間合計に換算した時間では、平均で86時間24分となり、2021年の前回調査結果(91時間13分)より減っているものの、依然として過労死ラインの月80時間を超える超過勤務になっています。

 1月あたりの校内での時間外勤務は、45時間超が82.3%となり、36.1%は100時間を超えていました。

  校種別での時間外勤務は、中学が最も長く、月平均で113時間44分。高校が95時間32分、小学校が93時間48分。 担任や部活動顧問の時間外勤務は特に多く、学級の担任を持つ教員は106時間45分、対外試合やコンクールのある部活動顧問の教員は108時間13分でした。 平日の平均的な睡眠時間は、6時間未満は46.3% 「疲れが翌日に残ることが時々ある」「睡眠によっても塚らは解消せず、溜まっていく」は合計で86.3%でした。

 かける時間を減らしたい業務などを複数回答(三つ以内)では、多いのが「報告書の作成」で小学校72.3%、中学校69.3%など。逆に、もっと時間をかけたいと思うことは「授業・学習指導とその準備」「学習指導以外の子どもの指導」「自主的な研修や自己研さん」が多く選択されています。

 また、81.4%が「教職の仕事にやりがいを感じる」と答える一方、78.7%が「仕事量が多すぎる」と答えています。

 「定額働かせ放題」と言われる給特法、部活動のあり方、事務分担の見直しなど、「子どもたちに行きとどいた教育」を行うために、個人、団体が改善を求めて運動しています。

先生たちの労働条件の改善は、子どもたち、保護者、そして市民の要求でもあるはずです。

埼玉公立小教員の残業代請求訴訟  2021年10月1日 判決

埼玉公立小教員の残業代請求訴訟とは

 教員の時間外労働に残業代が支払われていないのは違法だとして、埼玉県内の市立小学校の男性教員(62)が、県に約242万円の未払い賃金の支払いを求めた訴訟で、さいたま地裁(石垣陽介裁判長)は2021年10月1日、原告側の請求を棄却しました。

 石垣裁判長は判決で「多くの教員が一定の時間外勤務に従事せざるを得ない状況にあり、給特法は、もはや教育現場の実情に適合していないのではないかとの思いを抱かざるを得ず、原告が訴訟を通じて、この問題を社会に提議したことは意義があるものと考える」と付言しています。

 2022年8月25日の2審の判決で東京高等裁判所の矢尾渉裁判長は「教員の業務は自発的なものと、校長の命令に基づくものがこん然一体となっているため、一般の労働者と同様の賃金制度はなじまない」と指摘しました。訴えを退けました。

埼玉公立教員の残業代請求訴訟 2021年10月1日 さいたま地裁判決

最高裁 教員残業代 支払い認めず  2023年3月8日付 決定

 

 最高裁第2小法廷(岡村和美裁判長)は3月8日付で、教諭側の上告を退ける決定をし、請求を棄却した1,2審判決が確定しました。

公立校教員の給与体系を定めた特別措置法(特給法)は時間外勤務手当を支払わない一方、月給の4%に当たる「教職調整額」を一律支給すると規定。残業をを学校行事や職員会議などやむを得ない場合に限ると定めています。

 1審さいたま地裁は、2021年、「一般労働者と同様の割増賃金制度はなじまず、給特法はあらゆる時間外勤務について労基法の適用を排除している」として訴えを退けてました。
 そのうえで「多くの教職員が時間外勤務をせざるを得ない状況にあり、給特法はもはや教育現場に適合していないのではないか」と指摘し「給与体系の見直しを早急に進め、勤務環境の改善が図られることを切に望む」と付言しています。

 

特給法とは??

公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」と言い、昭和47年1月1日から施工されています。

要約すると

教員の職務と働き方は特殊なので、

★時間外勤務手当は支給しない

★その代わりに、給与月額の4%を「教職調整額」として支給する

教員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合は、政令で定める基準に従う。

政令とは 「公立の義務教育諸学校等の教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合等の基準を定める政令

要約すると

教員については、正規の勤務時間の割振りを適正に行う

教員については、原則として時間外勤務は命じない

教員に対して時間外勤務を命じる場合は、次の業務に従事する場合(臨時or緊急)

➀ 校外実習その他生徒の実習に関する業務

② 修学旅行その他学校の行事に関する業務

③ 職員会議(設置者の定めるところにより学校に置かれるものをいう。)に関する業務

④ 非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務

ごく簡単に言うと

先生たちの1日の勤務時間は7時間45分です。

先生たちの職務と働き方は特殊なので

  • 時間外勤務手当は支給しません。
  • その代わりに、給与月額の4%を「教職調整額」として支給します。
  • 原則、時間外勤務は命じないので、命じられていないものは勤務ではありません。だから、7時間45分以上働いても「勤務」とならないので、残業代は支給されません。
  • ただし、4つの業務に対しては時間外勤務(残業)を命じることがあります。

教職調整額 4% の根拠

昭和41年の調査で、「時間外の労働」が、給料の4%分と同じくらいだという結果をもとにしています。

昭和41年度 文部省が実施した「教員勤務状況調査」の結果

超過勤務時間

 1週間平均

  • 小学校 1時間20分
  • 中学校 2時間30分
  • 平均 1時間48分

 1週間平均の超過勤務時間が年間44週にわたって行われた場合の超過勤務手当に要する金額が、超過勤務手当算定の基礎となる給与に対し、約4パーセントに相当。

 ※ 年間44週(年間52週から、夏休み4週、年末年始2週、学年末始2週の計8週を除外)

引用:文部科学省 教職調整額の経緯等について

「給特法」見直し検討 有識者会議初会合

 文部科学省は2022年12月20日、公立学校の教員に時間外勤務手当を支給しないと定めた教職員給与特別措置法(給特法)の見直しに向けた課題を整理する有識者会議(座長・貞広斎子千葉大教育学部教授)の初会合を開きました。

 給特法が制定されたのは昭和46年。教職調整額も、41年当時に月8時間程度だった残業時間を基に決められたもので、多忙化が指摘される現在の勤務状況と乖離(かいり)しているとの指摘が上がっていました。

 会議では教員の給与や勤務の在り方に加え、学校における働き方の改革などについても調査や検討を進めることを確認しました。

 委員からは、「働き方改革への現場の努力は限界に近い」などといった意見が出され、有識者会議は、来年春までに給与の在り方などについての論点をまとめることにしています。

 文科省は今年春、6年ぶりに教員の残業時間などを調べた令和4年度の「教員勤務実態調査」を公表する予定で、有識者会議の論点整理も踏まえた上で、教員の処遇改善などについて法改正も含めて検討していくとしています。