パワハラ防止法
パワハラ防止法とは
2019年の第198回通常国会において「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」が成立し、これにより「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(以下「労働施策総合推進法」)が改正され、職場におけるパワーハラスメント防止対策が事業主に義務付けられました。
併せて、男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法においても、セクシュアルハラスメントや妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントに係る規定が一部改正。今までの職場でのハラスメント防止対策の措置に加えて、相談したこと等を理由とする不利益取扱いの禁止や国、事業主及び労働者の責務が明確化されるなど、防止対策の強化が図られ、2020 年6月1日から施行されました。
中小事業主(中小企業、中小の個人事業主)は経過措置として、2022年4月1日から義務化されることし猶予が与えられていましたが、全事業所に適用されることになりました。
「経営者が雇用管理上講ずべき措置」とは、以下の4つの対策です。
- 経営者の方針の明確化及びその周知・啓発
- 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- 職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
- 併せて講ずべき措置 (プライバシー保護、不利益取扱いの禁止等)
簡単に言えば下記のようなことでしょう。
- 従業員全員を対象に、「こういうのがパワハラとして認定されますよ」など、どのような行為・言動がハラスメントとなるのかを知らせる。
- 就業規則に「ハラスメントをしてはいけない」、また、ハラスメントをおこなったものは「就業規則違反として審査の上、懲罰を与える」という条項などを作成して、周知する。
- 「ハラスメント対策部」などの部署を設け、機関・窓口など、従業員に周知し、相談があったら迅速に対応する。
- その際、個人情報をまもることは当然とし、相談者に対し裏で「チクったな」「報復人事で遠方に異動だ」「降格」「減給」など、この制度を”反逆者のあぶりだし”として悪用しない事。
パワーハラスメントの定義
- 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
- 労働者の就業環境が害されるもの。
「優越的な関係を背景とした」言動 とは
仕事をするにあたって、抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるもので、たとえば
- 職務上に地位が上位の者による言動
- 同僚または部下による言動で、その人が仕事上必要な知識や経験をもっていて、その人の協力がなければ仕事をすることが困難となるもの。
- 同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの。
「業務上必要かつ相当な範囲をこえたり」 とは
仕事をするために必要といえるような仕事のミスに対する指導、叱責であっても、
- 侮辱や人格否定にいたる行為
- 同じことを何度も執拗に指摘する行為
- 他の同僚の面前で行われる行為
仕事上のミスに対して注意することは、業務の一環ですが、「おまえの頭は小学生並だな」とか尾ひれがつくと、パワハラとなってしまうということ。
「労働者の就業環境が害される」こと とは
言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快ものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、就業するうえで看過できない程度の支障が生じること。
代表的な言動
パワハラの行為 類型 | 典型例 |
➀身体的な攻撃 (暴行・障害) | 叩く、殴る、蹴るなどの暴行を受ける。丸めたポスターで頭を叩く。 |
②精神的な攻撃 (脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言) | 同僚の目の前で叱責される。他の職員を宛先に含めてメールで罵倒される。必要以上に長時間にわたり、繰り返し執拗に叱る。 |
③人間関係の切り離し (隔離・仲間外し・無視) | 一人だけ別室に席を移される。強制的に自宅待機を命じられる。送迎会に出席させない。 |
④過大な要求 (業務上明らかに不要なことや遂行・不可解なことの強制・仕事の妨害) | 新人で仕事のやり方もわからないのに、他の人の仕事まで押し付けられて、同僚は、皆先に帰ってしまった。 |
⑤過小な要求 (業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと) | 運転手なのに営業所の草むしりだけを命じられる。事務職なのに倉庫業務だけを命じられる。 |
⑥個の侵害 (私的なことに過度に立ち入ること) | 交際相手について執拗に問われる。妻に対する悪口を言われる。 |
パワハラ・セクハラ・マタハラ・etc ハラスメントに対抗するための備え
当事者同士での話し合いで解決すれば、それでいいのですが、そうはならないから「パワハラ防止法」などという法律・制度が必要となっています。
会社内の相談窓口、裁判、労働組合への相談など、第三者に相談することによって、パワハラを何とかしたい場合は、客観的に事実を証明する「証拠」が必要です。言った、言わないという世界になってしまうので。
あなたが、日常的にハラスメント行為が行われてきたと感じたなら、録音・録画・記録などの「証拠」を作成しましょう。
録音・録画
証拠として特に有効なのは、パワハラ行為の録音や録画です。”パワハラ行為の防止”という正当な目的があれば、相手に無断で録音や録画をしたとしても、「必要な範囲」であれば、不法行為にはなりません。
それを第三者に聞いてもらう行為も、その相手が相談窓口担当者や弁護士など、特定の者であれば、プライバシーの侵害にはなりません。
ただし、パワハラと関係のない内容の録音や録画や、不特定多数に聞いてもらうなどの行為は違法となることもあるので、注意しましょう。
記録
録音・録画が難しい場合は、被害を記録した日誌も証拠として認められます。
その形式は、他の人が改ざんしづらいという点から、パソコンより自筆の方がいいです。大学ノートなどに、日付を記入し、なるべく詳細・具体的に記録しておきます。
日記は、パワハラが起きた日だけではなく、何もなかった日も日記として記録しておきます。
- 時間
- 場所
- だれから
- 背景 (仕事をミスしたとき とか、その言動に至るいきさつ)
- 内容ではなく言葉 「・・・」 声の大きさ
- まわりに同僚がいたか否か いたら氏名を記入
- 自分の気持ち
どうしてもパソコン・スマホなどに記録する場合
”改ざんしづらい”という点で、一日、一日を一つのファイルに記録していくのではなく、一日ごとに新たなファイルを作成し、保存していきます。
暴力を受けたら
殴られる、叩かれるなどはパワハラというようりも「傷害罪」です。あとから痛くなったりしますから、証拠という点でも医師の診断を受けます。
とはいっても・・・
法に基づいて会社が相談窓口を設けたけど、窓口、担当者が総務部長だったりすることは多々あることで。相談しに行ったら、「君のためを思ってのことだよ」「昔はなぁ…」「頑張りな」なんて言いくるめられたり、セクハラの件で相談したくても、担当者に女性はいないくて、相談しづらい というのもあります。
そういう体制しか作れないことが、そもそも企業としてどうかと思いますが、現実は現実です。
会社に労働組合があり組合員ではあるけど、相談しにいくと”けんもほろろ”だったりすることもあるし、公的な相談所に行ってみたけど、対応がおそかったりすることもあるかと思います。
そんなふうに感じたら、八王子労連も相談窓口の一つとして訪問してみてください。
無理はしないで
ハラスメントはたいがい日常的に行われるものですから、「つらい」「会社行きたくない」と思うのは当然です。さっさと退職するのも解決の方法(逃げるが勝ち みたいな)だと思います。
しかし、経済的事情もあるし、そもそも「なんで私が辞めなければならないんだ」と理不尽を感じます。相談する、申し出ることを選択したならば、その日を励みに録音、日記作成を開始しましよう。(証拠集め)
でも、体に変調を来したら(眠れない、過呼吸、その他)、そこでSTOP。必ず、しかるべき病院を受診し、医師の判断を仰ぎましょう。医師が休職の判断をしたら、診断書を書いてもらって、お休みしましょう。そして一休みしてから、申告するか否かを選択します。
がまんしすぎると、病気になり、取り返しのつかないことになるかもしれませんから。