
政府・財界は裁量労働制、高度プロフェッショナル制度など、あの手この手で労働者を安く長く働かせる制度をつくってきました。
しかし、私たちの運動の結果、さまざまな労働者保護の規制がかけられ、企業にとっては使いにくい制度となっています。
政府・財界は規制が邪魔と言わんばかりに、労働者を守る労働基準法(労基法)そのものを解体しようと動き出しています。
注意!
デロケーションって?
デロケーションとは「原則からの逸脱、適用除外、例外の容認」の意味です。
労働基準法の役割
労働働基準法の目的は
労働基準法第1条2項には、この法の労働条件の基準は最低のものであるから、この基準を理由として労働条件を低下させてはならない、労使とも労働条件を向上させるよう努力しなければならないと書いてあります。
当然、基準を守らなければ、法律違反となり罰せられます。協定を超えた残業をさせた場合、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金を支払わなくてはなりません。
この法律は8時間労働や均等待遇、賃金の支払い、有給休暇の取得など、さまざまな労働条件を定めていますが、これは労働者が勝ち取ってきたものです。労働基準法は、使用者に対して弱い立場の労働者を守るための法律です。
経団連 労使自治を軸とした労働法制に関する提言
労働法制はシンプルに。労働時間規制のデロケーション(適用除外)の範囲の拡大
例えば「ウチは残業代出ないから」といったような法律を無視した押しつけは、今なら労働組合で交渉することによってはねつけることができます。それは経営者も労働者も労基法を守らなければならない、という大前提があるからです。
これを、経営側と労働者側で合意さえしてしまえば、労働基準法を「無効化」できるようにする目的を持つのが「デロケーション」です。
形式的であっても経営者と労働者の間で合意すれば労基法に従わなくてもよいということになってしまったらどうなるでしょう…?
「ウチは残業代がでないから」も労使の合意があれば「私の会社は残業代がでない会社」となります。「労使の合意」が必要なんだから、労働者が嫌だったら合意しなければいいんじゃない?と思う方もいるでしょう。しかし、会社の「提案」を拒否するなんて実際にそんなことができるでしょうか?
現在、日本の労働組合の組織率は20%を下回っています。ということは、80%以上の職場には労働組合がありません。従業員の過半数を組織するたたかう姿勢を持った交渉力のある労働組合があれば、組合は経営側からの圧力にも数の力で立ち向かえます。でも、そうした組合がない大半の職場は、管理職も含めた全従業員の投票で「従業員代表者」を選び、その人が経営側との交渉相手となります。これを「従業員代表制度」といって、従業員代表者は、①事業場のすべての労働者の投票で過半数を獲得した人が、②投票・挙手などで選ばれることになっています。また、管理職は代表者になることはできませんが、投票権はあります。
この「従業員代表制度」をご存じでしたか? 職場で一体だれが従業員代表者で、その人がどういう交渉をして、どういう協定を結んだのか知っていますか? 経営側の提案する協定に対して、なんらかの意思表示をしたことはありますか?
厚生労働省 新しい時代の働き方に関する研究会報告書
労基法は「守る」と「支える」。多様で柔軟な働き方を求める労使の希望を労基法は「妨げてはならない」
厚生労働省 労働基準法関係法制研究会(労基研)委員の発言
- 労基法の一律規制はなじまない
- 使用者に決定権を持たせ、(労働組合の)意見は聞くとして協議と意見聴衆でよい
- (労働時間規制は)最低基準だから健康確保に限定を
- 健康確保、生活時間の確保という目的のための規制として、罰則、監督規制、割増賃金などがあるが、過剰規制になっていないか
いま、厚労省に設置されている「労働基準関係法制研究会」の中で、労使自治によって労基法の労働時間規制の「デロゲーション」の範囲を拡大させる議論がおこなわれています。
働く人を守るための労基法のルールを、経営側と労働者側で合意さえしてしまえば無効化できるようにはならないか!ということです。
すでに労基法には労使合意によって決められるものがあります。例えば、残業時間を決める「36協定」があります。これらは「デロゲーション」といっても、長時間労働を招く危険が高いため、対象や期間など細かいルールが設定されています。
経団連はもっと自由に簡単に労基法の縛りを外したく、形式的に労使で合意さえすれば、労基法を下回る労働条件でも「合法」としたいのでしょう。
学者のみなさんの中には、労働者の立場にたって論陣を張って頑張っている方々もおり、研究会内の議論は拮抗しています。しかし、経団連に押された政府はこうした改悪を一括法案にして、いずれ法改正を狙ってくることでしょう。私たちは労働組合としてこの状況を黙って見過ごすことができません。