デロケーション⁉ 労働基準法の骨抜きを許すな!
chang.org 署名にご協力ください
労働基準法に守られている
「労働基準法」(以下、労基法)という法律をご存じでしょうか? 詳細な条文までは知らなくとも、なんとなく「働く人を守るための法律」だというイメージを持っている方が多いのではないかと思います。賃金のこと、契約のこと、労働時間や休憩のこと、休日や有給休暇のこと、労災補償のことなど、働く上でのさまざまなことがらについて、経営者が働く人たちに対して好き勝手なことをできないように、場合によっては経営者に対する罰則付きで最低限の縛りをかけておく。ざっくり言うと、それが労基法の役割です。いうまでもなく、めちゃくちゃ大切かつ重要な法律なのです。
もしこれを合法的に「無効化」できるようになってしまったら、どうなると思いますか? 残念なことに、世間には無茶苦茶な俺様ルールを押し付けてくるブラックな経営者が存在します。例えば「ウチは残業代出ないから」といったような法律を無視した押しつけは、今なら労働組合で交渉することによってはねつけることができます。それは経営者も労働者も労基法を守らなければならない、という大前提があるからです。しかし、たとえ形式的であっても経営者と労働者の間で合意すれば労基法に従わなくてもよいということになってしまったら…? 経営者にとってはまさにビッグ・ドリーム、一方で労働者にとっては最低・最悪の悪夢でしかないことが今、政府の中で議論され、ゆくゆくは「労基法改正」で具体化されようとしています。そして、これを強く政府に要望しているのが…そう、あの「経団連」です。一体どういうことなのかをこれから解説していきますので、長くなりますがしばらくお付き合いください。
実はいま、厚労省に設置されている「労働基準関係法制研究会」の中で、労使自治によって労基法の労働時間規制の「デロゲーション」の範囲を拡大させる議論がおこなわれています。一体なんのこっちゃ?という感じですが、ざっくり説明すると、デロゲーションというのは「法律の有効性を部分的に減じること」「規制の適用を除外すること」です。つまり働く人を守るための労基法のルールを、経営側と労働者側で合意さえしてしまえば無効化できるようにしよう!ということなのです。すでに労基法には労使合意によるデロゲーションがいくつも存在しています。例えば、残業時間を決める「36協定」や、「働かせ放題」「残業代ゼロ制度」などと呼ばれている裁量労働制や高度プロフェッショナル制度がそれにあたります。これらはデロゲーションといっても、長時間労働を招く危険が高いため、対象や期間など細かいルールが設定されています。だから、経団連はもっと自由に簡単に労基法の縛りを外したいのです。そのためには形式的に労使で合意さえすれば、労基法にダメと書いてあっても、オールOKにできるようにしよう!と考えたのです。
これは本当に冗談抜きで、かなりヤバいやり方です。どこか既視感があるなと思ったのですが、国会での議論を軽視してなんでも閣議決定で決めてしまうやり方とか、憲法を改正するのは難しいから、憲法の解釈を変えてしまおうというやり方に似ているんじゃないか…という気がしています。
でも「労使の合意」が必要なんだから、労働者が嫌だったら合意しなければいいんじゃない?と思いますよね。しかし、会社の「提案」を拒否する、実際にそんなことができるでしょうか? 現在、日本の労働組合の組織率は20%を下回っています。ということは、80%以上の職場には労働組合がありません。従業員の過半数を組織するたたかう姿勢を持った交渉力のある労働組合があれば、組合は経営側からの圧力にも数の力で立ち向かえます。でも、そうした組合がない大半の職場は、管理職も含めた全従業員の投票で「従業員代表者」を選び、その人が経営側との交渉相手となります。これを「従業員代表制度」といって、従業員代表者は、①事業場のすべての労働者の投票で過半数を獲得した人が、②投票・挙手などで選ばれることになっています。また、管理職は代表者になることはできませんが、投票権はあります。
ところで、みなさんはこの「従業員代表制度」をご存じでしたか? あなたの職場で一体だれが従業員代表者で、その人がどういう交渉をして、どういう協定を結んだのか知っていますか?? 経営側の提案する協定に対して、なんらかの意思表示をしたことはありますか???
この従業員代表制度は認知度が低いうえに、経営側が息のかかった労働者を勝手に指名したり、誰が何を投票したか監視したりといったあからさまな介入や、社員会・親睦会等の代表者が自動的に就任するなどの不適切な方法による選出が少なくありません。実際に私たちが行っている労働相談でも、そんな相談が寄せられています。こうした状況でどんなにひどい協定が結ばれたとしても、それによって従業員全員が合意したと見なされてしまうのです。冒頭に書いた「ウチは残業代出ないから」というブラック経営者の俺様ルールも、労使で合意されてしまえば、合法化してしまう可能性も否定できません…。
これで「労使の合意」で労基法を無効化して、デロゲーションを拡大させることがいかに危ういことなのか、少しでもみなさんに伝わったでしょうか? これはみなさんの職場でも十分に起こりえることなのです。
前述の研究会では、政府・経団連寄りの学者のみなさんがこんな発言をしているそうです。
「労働基準法で一律に規制するよりも、労働基準を各職場に合わせて労使でカスタマイズすべき」
→交渉力のある労働組合がない大半の職場においては、経営者の思うがままにカスタマイズされてしまうことになるでしょう。
「長時間働きたい人の自由を奪うな!」
→最低賃金以下でも働きたいという人の「自由」を認めると、その金額が新たな基準となり、賃金の相場はどんどん下がっていきます。同じ理由でこの自由を認めると、さらに長時間労働が広がることになります。
「時間外・休日・深夜の割り増し賃金は抑制効果を発揮していないので、廃止したほうがよい」
→割増賃金なしで残業させたり休日出勤させたりできるようになれば、経営者が考えることはひとつ。「もっと働かせよう」に決まっているじゃないですか!
「テレワークが広がっているので事業所単位での規制が困難になっている。代表者を本社に集めて、一括で管理したほうがよい」
→実はこれ、経団連の要求なのです。繁忙期や労働者の配置状況などは現場ごとに異なりますし、現場のことは現場が一番よく知っているものです。本社一括管理では事業所ごとの現場の声が反映されなくなり、労働組合の交渉力も弱められます。
「企業の中のルールを作る話し合いだから、使用者に決定権を持たせて、労働者には協議と意見を聞くだけでよい」(=「労使合意」はいらない)
→おい!!
学者のみなさんの中には、労働者の立場にたって論陣を張って頑張っている方々もおり、研究会内の議論は拮抗しています。しかし、経団連に押された政府はこうした改悪を一括法案にして、いずれ法改正を狙ってくることでしょう。私たちは労働組合としてこの状況を黙って見過ごすことができないと思い、緊急でこの署名を立ち上げることにしました。私たちの要求は以下のとおりです。
1. 労働基準法に反するデロゲーションの容易化・拡大をやめてください。
2. 労働基準監督官と監督行政職員をILO(国際労働機関)基準並みに増やしてください。
3. 労働基準法を改悪するのではなく、労働者が働きやすくなるようルールを改善してください(①~⑥)。
①労働時間の上限を1日7時間・週35時間に
②労働と労働の間のインターバルを11時間に
③深夜労働の回数に上限規制を
④公務・民間の災害時の時間外労働の規制強化を
⑤過半数代表者制度の改善を(代表選出が公正に行われるための経営側に対する禁止事項、具体的な選挙・投票方法の法整備など)
⑥本社(企業)単位ではなく、事業所単位での規制の維持を
政府と経団連による労基法を無効化しようという世紀の企みをストップさせるためにも、すべての働く人のためのよりよい職場環境を実現するためにも、ぜひこの署名にサインをお願いいたします。長文を最後までお読みいただき、ありがとうございました。